カテゴリー: インタビュー(海外留学)
海外留学インタビュー
Dr.梅井 菜央
私は、重症呼吸不全に対するextracorporeal membrane oxygenation (ECMO)を専門分野としています。年間約30例のECMO治療に従事し、ECMOの有効性、合併症、長期維持などの臨床研究を行ってきました。しかし、このような臨床研究のみでは、ECMOの成績向上に繋がらないと考え、2018年から約2年半、米国のカーネギーメロン大学に留学しました。
【カーネギーメロン大学】
1960年代に米国でECMOの開発に貢献したDr. Robert Bartlettに師事してECMOやLiquid Ventilationなどの研究を行っていたKeith E Cook教授がおられるカーネギーメロン大学のDepartment of Biomedical Engineering(生体医工学科)を留学先に選びました。Keith教授の研究室では大型動物を用いたECMOの基礎研究を全米で一番行っているのも今回選んだ大きな理由でした。カーネギーメロン大学はアメリカ合衆国の北東部に位置し、ペンシルベニア州のピッツバーグにあります。1900年にカーネギーホールを設立したAndrew Carnegieにより設立された米国名門の私立大学で工学やコンピューター分野で有名な大学の一つです。大学のモットーは”My heart is the work”とされており、私の考えとも一致しているのが魅力的でした。
【研究内容】
Keith教授の研究室には約10名の大学院生と修士課程学生が所属しており、それぞれがECMOに関する研究を行っていました。私は、Keith教授から新しい抗凝固薬の研究テーマをもらいました。まずは、ウサギにECMOを導入しその有効性を検証しました。次に世界最小のラットのECMOモデルを作成し、そのモデルで新しい抗凝固薬の有効性の検証を行いました。ラットのECMOモデルの作成は、カニュレーション、回路作成、抗凝固量等も含め困難を極めました。なんとか成功し、新しい抗凝固薬のデータも集めることができました。さらに、同時並行して、3カ月に1回の頻度で、羊にECMOを導入し、新しいコーティングの研究も行っていました。最小のラットから羊まで多種類の動物にECMOを自分で導入するという貴重な経験をすることができました。
【研究生活】
ウサギやラットの研究は、実験を週2–3回朝5時頃から夜中まで行い、合間に人工肺や回路を作成し、金曜日に一週間の研究内容を報告するというスケジュールでした。一方、3ヶ月に1回の羊のECMOを実験する時は、準備に2週間程要し、ECMOを導入した後は徹夜で管理を行い、その後2週間のECMO管理を行うという研究生活でした。羊は術後の不穏状態が強く、暴れたり、脱走しようとしたりするので、自分の体があざだらけになり悪戦苦闘の毎日でした。なんとか無事ECMO装着して2週間維持することにも成功しました。このように、非常にハードな研究生活でしたが充実したものでした。留学生活 ピッツバークは、かつて「鉄鋼の町」と呼ばれていましたが、現在は医療、大学で知られ治安もよく、食料品や衣類などに税金もかからず住みやすい都市です。あのHeinzのケチャップでも有名です。観光地はなく、巨大スーパーで大きなスナックを買うのが私の楽しみでした。また、ピッツバーク大学医療センター(UPMC)には、日本人の先生方が活躍されており、時々、食事会が開催されアメリカの医療の話や研究のアドバイスなどもしてもらい、多くの激励と刺激をもらいました。 最後に衝撃的だったのは、2020年3月からCOVID-19大流行による“Stay at home”命令です。日本よりも厳重で、研究室は完全に閉鎖され、食料品を買いに行くことだけが許されました。日本のように誰でもすぐに病院受診し診てもらえる医療システムではないので、身の危険を感じ、一歩も家からでない生活を人生で初めてしました。結局、研究は終了できずに帰国となりましたが、一人でも多くの患者様が救命できるように、今後も同研究を継続していきたいと思います。
【留学を考えている方へ】
留学は遊学ではありません。しなくてもよい無駄な努力を沢山します。日本とは異なる環境で、文化の違う人達の中で、何を言っているかもわからず、屈辱的な思いもします。ただ、それでも、私は留学を勧めます。どの国も、日本より優れた何かを持っています。その優れたものを取り入れ世界観を広げ人として成長することが留学の醍醐味だと思います。
【最後に】
留学の機会を与えて下さった坂本教授、Keith E.Cook教授に感謝致します。そして、辛くても耐え抜けたのはカーネギーメロン大学の大学生や大学院生、ピッツバークで活躍している日本人の先生方、日本から応援して下さった方々のおかげだと思います。この場をお借りして深く感謝致します。
Dr.岩﨑 雅江
2009年入局の岩﨑雅江と申します。私が当医局入局を選んだ理由は、当初より留学の希望があり、大学院入局という選択肢があったためです。私は大学院入局し、大学院4年秋から1度目の海外留学、帰国後に再び2度目の海外留学をさせていただきました。留学先は共にイギリス ロンドン市内にあるImperial College London(以下ICL) のChelsea and Westminster hospital内、麻酔科学研究室です。ここは、Magill鉗や麻酔回路などの発明者Magill教授の名を拝した研究室です。
大学院生時の課題は「慢性疼痛モデルラットでの海馬miRNAの網羅解析」を頂き、ICLでは「麻酔薬の培養癌細胞への影響」というテーマのもと、培養細胞でのin vitro、ヌードマウスでの異種グラフトモデルでのin vivo研究をご指導頂きました。臨床業務がなく終日基礎研究を行う生活に、最初は戸惑いもありました。しかし、過去の文献から臨床的意義を求めつつ基礎研究を組み立てていくことの面白さ、細胞・生体内生理を多角的に科学検証する難しさ、新規性のある結果を得られた時の静かな感動など、多くの経験を得ました。特に、上司や同僚達は研究者として長年活躍しているため、彼らの研究への姿勢や科学的データの組み立て方は、新米研究者の私にとって1つ1つがお手本になりました。
また、よく言われるように、海外生活は自身についても深く考える良い機会でした。言語・背景・文化の異なる上司、同僚、大学院生、学部生達に囲まれ、互いに研究や生活を助け合いながら充実した日々を送りました。COVID-19によるロックダウン中も、帰国後の今でも、連絡を取り合う大切な友人達です。
医療は科学の積み重ねで出来ています。
じっくりと科学データを検証する面白さ、海外での経験を是非皆様にもして頂けたらと思います。
Dr.石川 真士
私は2019年4月より1年間、イギリス ロンドンにあるImperial College Londonに留学し「癌細胞に対する麻酔薬の作用」をテーマとした基礎研究に従事しました。私の指導をしていただいたMa教授のサポートのもとで充実した研究生活を送ることができました。
大学院4年間で基礎研究に従事した経験はありましたが、研究を主とする先生方の考えや知識の深さ、考察力には驚くとともに、学ぶことが多くありました。基礎研究は予想通り進むことよりも、失敗や悩むことの方が多くあります。研究過程は辛いことであるとともに、答えを見つけた時の達成感は言葉では言い表せません。「患者さんにとってより良い麻酔管理は何か」という答えにはまだまだ遠いですが、私の研究が患者さんのためになれば幸いです。
ロンドンは多民族からなる社会であるため、各人の考え方や背景の違いには驚きました。1年間という短い留学生活であったため、慣れるだけで終わったことは残念です。しかし、この「違い」は自分の価値観を根底から見つめ直し、人としても反省し学ぶきっかけとなりました。楽しいこと、辛いこともたくさんあった留学ですが、大きな成長を得た自分の人生にとって貴重な経験だと思います。
最後にこのような貴重な機会を与えてくださった坂本篤裕教授、医局員の皆様、Ma教授と教室員の先生方、多大なサポートをしてくれた岩﨑先生、単身赴任の留学というわがままを受け入れてくれた妻に、心より感謝いたします。