2022年11月30日

麻酔薬と遺伝子

麻酔薬によるmicroRNA発現変化と生体への影響

2005年本教室の坂本教授により「セボフルランが各臓器の遺伝子発現変化に及ぼす影響」について報告し、麻酔薬の体内遺伝子発現に及ぼす影響の網羅的解析としては世界で初めての研究となりました。本教室ではこの報告を基に脳、肺、肝臓、腎臓においてセボフルラン、プロポフォール、デクスメデトミジンといった臨床で用いられる麻酔薬の作用機序や影響の検討をいわゆる”omics医学(genomics, proteomics, matabolomics)”を用いて、遺伝子、タンパク、代謝物レベルで検討してきました。

一方で、近年話題となっているmicroRNAについても検討を開始しています。microRNAとはタンパクをコードしていないRNAであり、ターゲットとなるmRNAの分解・翻訳抑制により遺伝子発現制御を担います。本教室ではmicroRNAにも着目し、麻酔薬の作用機序の解明とともに、敗血症モデルでの麻酔薬による肺保護機序の解明、肝臓において虚血再灌流障害への臓器保護効果の機序解明をテーマに研究が進んでいます。

Sakamoto A. GENE 356: 39-48, 2005.
Takemori K. Br J Anaesth 100: 190-194, 2007.
Kawaguchi H. PLoS One 5: e11172, 2010.
Tsuboko Y. Biomed Res 32: 55-65, 2011.
Tajima T. BMC Med Imaging 12: 28, 2012.
Tanaka S. Biomed Res 33: 255-263, 2012.
Genda Y. Int J Mol Med 31: 129-137, 2013.
Goto G. Mol Med Rep 9: 1715-1722, 2014.
Takeuchi J. Int J Mol Med 34: 291-298, 2014.
Otsuki T. Biomed Rep 3: 408-412, 2015.
Fujimoto S. Biomed Res 36: 347-355, 2015.

 


麻酔薬によるmicroRNA発現変化と生体への影響

当教室では過去に健康ラットに対してセボフルランを暴露し、肝臓においてmicroRNAの発現が変化することを報告しました。そこで、肝切除術・生体肝移植術などで問題となる肝臓虚血再灌流障害に対してセボフルランの臓器保護効果にmicroRNAが関与しているか、また過去の報告で臓器保護効果が確認されている虚血PreconditioningとmicroRNAレベルで差異があるかをラットのモデルで研究しています。

Nakazato K. Biomed Res 30: 17-24, 2009.
Ishikawa M. Anesthesiology 117: 1245-1252, 2012.
Morita T. PLoS One 14: e0125866, 2015

2022年11月30日

麻酔とCircadain rhythm

麻酔薬による日内変動遺伝子への影響

全身麻酔は臨床的には、手術にはなくてはならないものですが、全身麻酔の基礎的な分子メカニズムはあまりわかっていません。
遺伝子発現の解析により、セボフルラン投与により多くの時計遺伝子の発現が影響を受けることを発見しました。時計遺伝子とは睡眠覚醒、代謝やホルモン分泌など約24時間の概日リズムを持つシステムを制御している遺伝子です。

麻酔による術後の睡眠覚醒リズム変調や気分障害が指摘されています。そのような状況に時計遺伝子の変調が関与している可能性があります。時計遺伝子への麻酔の影響を調べ、生物時計を制御することにより、術後の患者さんのこうした変調を回避した麻酔が施行できる可能性があると考え実験を行っています。

Sakamoto A. GENE 356: 39-48, 2005.
Kobayashi K. Brain Res 1185: 1-7, 2007.
Yoshida Y. Brain Res Bull 79: 441-444, 2009.
Ohe Y. Neurosci Lett 490: 231-237, 20111.
Kadota K. Neurosci Lett 528: 153-158, 2012.
Anzai M. PLoS One 8: e59454, 2013.
Mori K. PLoS One 9: e87319, 2014.
Matsuo I. Neurosci Res 15, 2015.
Nagamoto S. Neurosci Lett 620: 163-168, 2016

 

2022年11月29日

麻酔と慢性疼痛

慢性疼痛への挑戦

慢性疼痛は癌などの悪性疾患と異なり、死とは無縁の病態です。しかし、生きていくうえで常に痛みを伴うということはある意味「死」以上の苦痛と恐怖を感じながら生活していくことを余儀なくされます。そのため、疼痛を取り除くことはその人の生活の質QOLを取り戻すうえで重要になってきます。ところが慢性疼痛の病態は様々で、一見同じ原因と思われる疼痛でも強度・治療への抵抗性は一様ではなく、治療に難渋することをよく経験します。

本教室では、慢性疼痛の病態を微小な遺伝子レベルでの差異を解析することで、病態の解明と有効な治療の発見へとつなげていけると信じ、日々研究・研鑽を重ねております。その中で、我々は脊髄後角に注目して解析を進めています。ラットの研究において神経障害性疼痛モデルの脊髄後角ではmicroRNAの多種多様な変化を見出すことが出来ました。現在この変化の解明を一歩一歩進めていくところです。

Sato C. Anesth Analg 106: 313-320, 2008.
Okabe T. Pain Med 10: 1460-1467, 2009.
Toda S. Mol Pain 7:2,2011
Mase H. Nerosci Res 70: 35-43, 2011.
Muto Y. Br J Pharmacol 172: 2469-2478, 2012.
Arai M. Pain Med 14: 720-729, 2013.
Hori Y. Int J Mol Med 32: 1287-1292, 2013.
Kimura Y. Biomed Rep 3: 802-806, 2015.

 

2022年11月28日

臨床研究 1

術中の膠質浸透圧変化に関する臨床研究

体液変動が著しい周術期において、臨床使用可能な循環血液量測定が望まれますが、正確で安全に反復測定可能な測定法は確立されていません。本教室では体内に存在する希釈マーカーを用いてその変化率から推定する方法を検討し続けています。特に膠質浸透圧計を用いた、膠質浸透圧の変化量から循環血液量の変化を推測し、その正確性についての検討を行っています。

Sano Y. Eur J Anaesthesiol 22: 258-262, 2005.
Yagi K. Open J Anesthesiol 9: 396-401, 2013.

 

2022年11月27日

臨床研究 2

短時間作用型β遮断薬の臨床有用性-多施設共同研究-

循環器領域におけるβ遮断薬の有用性は示され、抗不整脈作用から心筋保護効果まで幅広い効果は、周術期管理においても十分有用性が予測されるものの、循環動態変動を伴う状況において、その副作用・作用時間が問題でした。esmololについで本邦で開発されたlandiololは半減期の短さ、β1選択性および陰性変力作用の少なさから、周術期でのベータ遮断による治療・予防効果を十分発揮できることが推測されました。本教室では、麻酔科のみならず循環器外科、循環器内科、集中治療科共同で多施設研究を展開しています。

Sakamoto A et al. Circ J 76: 1097-1101, 2012.
Nagai R et al. Circ J 77: 908-916, 2013.
Kinugawa K et al. Adv Ther 31: 426-439, 2014.
Sakamoto A et al. Adv Ther 31: 291-298, 2014.